VETS ACADEMYにて公開(無料にて視聴可能)です。
再生医療の現状と課題 -インフォームドコンセントを中心に-
概 要 (VETS ACADEMYより抜粋)
2021年3月、犬(同種)脂肪組織由来間葉系幹細胞を主成分とする動物用再生医療等製品として、DSファーマアニマルヘルス株式会社の「ステムキュア®」が世界ではじめて条件および期限付き製造販売承認を取得した。
では、適応疾患である犬胸腰部椎間板ヘルニアの症例を前にしたとき、臨床獣医師はステムキュア®に何を期待し、何に注意し、飼い主にどう説明していくべきだろうか。
今回の対談では一般社団法人日本獣医再生医療学会の平野由夫副理事長、そして豊富な臨床経験をもち、平野副理事長の日大時代の同級生でもある久山昌之先生に、臨床家の視点で実際の症例をイメージしながら語り合ってもらった。
【登場人物?!のご紹介】
うぃっぴー(犬):2歳になるウィペットの女の子で、とにかくお散歩が大好き。ただ、原っぱや砂利を飛ぶように走るので、怪我が絶えない。
ちゅら(猫):沖縄で保護されたことから、美ら海にちなんで、ちゅらと名づけられた3歳の女の子。うぃっぴーのお姉さん役。
とーさん(人):開業30年目を迎える獣医師で、日本獣医再生医療学会の副理事長(2021年6月現在)。うぃっぴーとちゅらのお世話係とも呼ばれている…。
ちゅら「とーさん!うぃっぴーがまた怪我してる!」
うぃっぴー「大きい声で言わないで!ちゅら!こんなの舐めておけば治るし、とーさんに見つかるといろいろ厄介なことになるから…(汗)」
とーさん「もう充分に聞こえてるし、厄介なことってなにょ。っていうか、血も出てるし、ずいぶん腫れて、傷口が開いてるじゃん。とにかく舐め舐めしないで、ちゃんと洗浄して、汚れやバイ菌を洗い落としておくべきだよ」
うぃっぴー「ほらぁ、もぉーっ(汗)。ねぇ、とーさん、きっと大丈夫だょ。なんかちょいちょいって塗ると、傷口がさーっと治っちゃうお薬とかないの?!(泣)」
とーさん「そんなに簡単にはいかないさ。とかげの尻尾じゃないんだから(笑)。でも、確かにそういうお薬があれば、どんな怪我でも、どんな病気でも、必ず治してあげられるようになるね。とにかく、うぃっぴーの傷口は洗うべきだよ!さぁ、こっちへおいで!」
うぃっぴー「わーーん(泣)」
皆さん、こんにちは。とーさんこと、ひらの動物病院の平野由夫です。うぃっぴーの傷は思いのほか深かったことから彼女の「きっと大丈夫」という希望は叶わず、その後、麻酔をかけて縫合することになりました。
動物病院では今回のような皮膚の傷や炎症に限らず、胸やお腹といった身体のなかの病気についても、症状に応じてそれらを改善する効果・効能をもつ薬を用いた投薬治療で、動物たちの苦痛をやわらげ改善に導いています。また、場合によっては洗浄や消毒だけではなく切除や縫合といった外科治療も併せて病気の原因を取り除き、一日でも早く動物たちが健やかな日常に戻れるように、日々、獣医さんたちは診療を続けています。
そういった日常診療に加えて、もし「病気になった部分そのものを、元々あった正常な状態に戻す医療」があったらどうでしょう?!うぃっぴーが切望していたような「ちょいって塗ると、傷口がさーっと治っちゃうお薬」があれば、どれほど多くの傷を、根本から、そして完全に治してあげることが出来るでしょう。病気という障害を受けた組織や細胞そのものに働きかけて、障害の進行を抑制し、正常な状態に戻ることを促す医療があれば、どれほどに多くの病気を「根治」そして「完治」に導くことが出来るでしょう。それこそが、まさに「再生医療」なのです。
確かに現段階では「とかげの尻尾」が生え変わるような、完全な再生は可能ではありません。しかし、多くの大学や研究機関・関連企業で、再生医療の研究や開発は盛んに行われています。当院では、臨床研究という位置づけで、標準的な治療法だけでは改善や維持が得られにくい難治性疾患や腫瘍性疾患で悩む動物たちに対して、2010年より、動物たちへの獣医再生医療を実践しています。
どうですか?皆さん、再生医療が動物たちの治療のなかで、どういう役割を果たしているか、ご理解いただけましたか? 次回はさらに理解を深めていただくために、そのメカニズムについて、≪第2回:再生医療って身体の中でなにが起きてるの?≫をお送りします。楽しみに待っていてくださいね!
さて、うぃっぴーの傷ですが、幸いなことに今回は再生医療の出番には至らず、抜糸も済みました!もう、すっかり元気に走り回っていますので、ご心配には及びません‼
獣医再生医療紹介サイト公開前に、ひらの動物病院併設 「どうぶつ細胞保管センター AniCell(アニセル)」が目指す獣医再生医療の紹介動画を先行公開します。
2017年1月に『蛋白量出性腸炎(IBD/炎症性腸疾患)』と診断し、常法にのっとった内科的治療により臨床症状は改善し、約3年間、元気に維持できていたウェルシュ・コーギーのワンちゃんです。14歳になろうかという昨年末から習慣性大腸炎が発症し、今回、イヌ皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(他家)療法の実施となりました。
内科的に複数疾患が存在し、年齢的な配慮とご家族の希望もふくめて、免疫抑制を強化する前段に細胞療法を実践してみるということになりました。1回目は、1月に横浜の『動物再生医療センター病院』にて投与を受けましたが、今回、経産省の技術研究組合法に基づくCollaborative Innovation Partnership(技術研究組合)により、当院での『イヌ皮下脂肪組織由来間葉系幹細胞(他家)療法』が可能となりました。
他のワンちゃんから採取した皮下脂肪組織から幹細胞を抽出〜培養する他家というスタイルとなり、細胞の抽出〜培養は、先端医療分野での製造技術と品質保証技術をもつ富士フイルムグループと、アニコムグループとの合弁会社である「セルトラスト・アニマル・セラピューティクス株式会社」がおこない、当院での投与となります。
投与後1週間となりますが、投与後のワンちゃんの体調もよく、うんちの状態についても、ご家族からの報告はいまのところ、goodな評価です。
日本獣医再生医療学会 副理事長
1月25日、26日の両日、横浜駅徒歩5分のビジョンセンター横浜にて日本獣医再生医療学会第15回年次大会が開催されました。本大会には大会実行委員長として臨んだわけですが、お蔭様でたくさんの獣医学関連企業の皆様にご協力をいただき、たくさんの先生方、たくさんの関係者の皆様方にご来場いただきました。